「今なら特別価格で」「志望校合格のために必須です」——。
中3の夏から冬にかけて、大手進学塾の面談ではこんな言葉とともに次々とオプション講座が提案されます。私自身、埼玉県内の大手進学塾で塾講師をしていた頃、面談の場でこうした講座を「勧める側」でした。正直に言うと、その中には成績向上にほとんど寄与しないのに、保護者の不安につけこんで売っている講座が確実に存在します。
今回は、元塾講師としての実体験をもとに、「取らなくていい」オプション講座を具体的に挙げていきます。塾を辞めた今だからこそ書ける、少し踏み込んだ内容です。
なぜ塾はオプション講座を勧めるのか
前提として知っておいてほしいのは、大手塾の校舎運営は通常授業だけでは利益が出にくい構造になっているということです。人件費・教室維持費・広告費を考えると、季節講習やオプション講座での追加売上が、校舎の収益と講師の評価(=ノルマ達成率)に直結します。
つまり面談での提案は、教務的な必要性だけでなく、校舎の売上目標から逆算されているケースが少なくありません。もちろんすべての講座が無駄というわけではなく、本当に必要な生徒もいます。問題は「全員に一律で勧められる」ことです。
取らなくていいオプション講座、実体験ベースで5つ
1. 「志望校別特訓講座」の同一偏差値帯パック
模試の偏差値が志望校の合格圏に既に入っている生徒にまで、「万全を期すため」と称して志望校別特訓を勧めるケースです。実際には通常授業の過去問演習で十分カバーできる内容を、別料金で切り出しているだけということがよくありました。
判断基準:直近2〜3回の模試で志望校の判定がB以上、かつ通常授業で過去問演習の時間が確保されているなら、基本的に不要です。
ただし、浦和・浦和第一女子・大宮・川越などの上位公立校が採用する学校選択問題(数学・英語)を受験する場合は事情が異なります。令和9年度(2027年)入試からは解答方法が全教科でマークシート方式中心(得点換算でマーク約9割・記述約1割)に変わりますが、学校選択問題そのものが応用的な内容を含む点は変わりません。通常授業が全員共通の入試問題ベースで進み、学校選択問題特有の思考力・応用問題への対策が手薄なケースもあるため、この層は受講の余地があります。
「通常授業内で学校選択問題対策が何コマ組まれているか」を面談で具体的に確認したうえで判断してください。
2. 季節講習の「フルコマ」パック
夏期・冬期講習で、必修コマに加えて「発展コマ」「演習コマ」をセットで契約させる形式です。苦手科目が明確な生徒ならピンポイントで有効ですが、全科目均等にコマを積む「フルパック」は、得意科目にまで時間とお金を使うだけになりがちです。
判断基準:直近の成績表を見て、偏差値50台後半以上の科目にまで発展コマを入れる必要は基本的にありません。苦手科目だけ単科で申し込めないか、面談で必ず確認しましょう。
3. 模試込みオプションパック(自塾模試の重複受験)
塾によっては「対策講座+模試」がセットになったパックを勧めてきますが、埼玉県の受験生にとって、北辰テストは単なる「信頼性の高い模試」ではありません。私立高校の確約(個別相談での合格の目安)を取るために必要な資料として使われる、いわば「パスポート」です。私立の個別相談では、多くの学校が北辰テストの偏差値を基準として提示してきます。
自塾の内部模試をどれだけ受けても、その結果を私立の確約資料として使えないことがほとんどです。結局、確約を取るためには北辰テストを受けざるを得ず、自塾模試込みのオプションパックは受験回数と費用が二重にかかるだけ、というケースをよく見てきました。
判断基準:私立の確約取得を視野に入れているなら、北辰テストを優先的に受験し、自塾模試込みのオプションパックは基本的に不要です。自塾模試は、あくまで塾内の単元別到達度チェックとして位置づけましょう。
4. 英検・漢検「対策講座」の一律受講
これまでは「英検・漢検を取得すれば内申点に加点される」という前提で、対策講座が積極的に勧められてきました。しかし令和9年度(2027年)入試からは、この前提が変わります。調査書(内申書)の記載項目が9教科5段階の評定のみになり、これまで内申点に反映されていた英検・漢検などの資格取得や部活動の実績による加点が廃止されるのです。英検などの実績は新設される「自己評価資料」に記載する形になりますが、この資料自体は得点化されず、あくまで面接時の参考資料としての位置づけにとどまります。
つまり、「内申点への加点のため」という理由だけで一律に対策講座を勧められた場合、それは令和8年度以前の制度を前提にした古い説明である可能性があります。もちろん英検・漢検の取得自体が英語力・語彙力の底上げにつながることは事実ですし、面接や自己評価資料の材料として無駄になるわけではありません。ただし「入試の得点に直結する」という売り文句には注意が必要です。
判断基準:「加点」という言葉が出てきたら、令和9年度の新制度を踏まえた説明かどうかを塾に確認しましょう。過去問の正答率が7割を超えているなら、有料の対策講座より過去問演習の反復のほうが効率的です。
5. 直前期の「合宿」「特別ゼミ」
12月〜1月に組まれる合宿形式の講座は、環境を変えることでモチベーションが上がる生徒には有効な場合もあります。一方で、移動時間や体力消耗を考えると、直前期は自宅や普段の教室で慣れた環境で演習を積んだほうが得点に直結する生徒も多いというのが実感です。
判断基準:模試の結果が安定して伸びているタイプの生徒は、環境を変えるリスクのほうが大きいことがあります。
オプション講座を見極める3つの質問
面談でオプション講座を提案されたら、次の3つを塾に聞いてみてください。
- 「この講座を取らなかった場合、通常授業だけでは何が足りませんか?」:具体的に答えられない場合は、必要性が薄い可能性が高いです。
- 「同じ効果を、家庭学習や市販教材で代替する方法はありますか?」:誠実な講師であれば、代替案も含めて正直に答えてくれます。
- 「他の受講生も全員このオプションを取っていますか?」:ほぼ全員が加入している講座は、個別の学力診断ではなく一律営業の可能性があります。
まとめ:オプションより優先すべきこと
オプション講座を検討する前に、まず確認してほしいのは以下の2点です。
- 埼玉県の私立高校における「確約」制度(個別相談での合格の目安。公立高校にはこの制度はなく、令和9年度からは全受検生必須となる面接も含め、当日の学力検査・内申点・面接の総合点で合否が決まります)と、公立高校入試の内申点の仕組みを、保護者自身が正しく理解しているか
- 志望校の過去の得点分布・倍率を踏まえて、今の成績とのギャップが本当にオプションで埋まるものか
埼玉県における高校入試の全体スケジュールや確約制度の詳細については、[令和9年度(2027年)埼玉県高校入試ガイド]の記事で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
よくある質問
Q. オプション講座を断ると、塾での評価や対応が悪くなりませんか?
A. 良心的な塾であれば、必要のない講座を断ったことで対応が変わることはありません。もし態度が明らかに変わるようであれば、それ自体がその塾を見直すサインかもしれません。
Q. 苦手科目のオプションだけ単科で申し込むことは可能ですか?
A. 多くの塾で単科受講は可能ですが、面談時にパックプランしか提示されないことがあります。単科の可否は必ず自分から確認しましょう。
Q. オプションを断った分の予算は何に使うべきですか?
A. 北辰テストなど信頼性の高い外部模試の追加受験や、過去問演習用の教材費に充てるほうが、直前期の得点力アップに直結しやすいです。
もうひとつ付け加えるなら、そもそも塾のオプション講座に感じていた「うちの子にはピンポイントで見てほしい部分があるのに、パックでしか提供されない」というモヤモヤは、集団授業という形式そのものに起因していることも少なくありません。苦手分野の絞り込みや志望校別の学習計画づくりを、講座単位ではなく生徒一人ひとりの状況に合わせて相談したいなら、家庭教師という選択肢を比較検討してみる価値はあります。
家庭教師の合格王で、埼玉県の受験事情に詳しい講師を紹介してもらうのも一つの方法でしょう。






