「体験授業、すごく楽しそうでした! ここに決めてもいいですよね?」
「先生は感じがよかったけれど、何を基準に決めればいいのかわかりません」
体験授業のあと、こうした声はとても多いです。お子さんが笑顔で帰ってくると、保護者としては安心しますし、その場で入塾を決めたくなる気持ちもよくわかります。
この記事の結論は、体験授業で見るべきなのは「楽しかったか」よりも、「講師がわが子のどこを、どこまで見ていたか」と「埼玉の入試に合った説明があったか」の2点です。この2点は、50分から60分の体験授業の中でも、保護者が後ろの席から確かめられます。
この記事では、体験授業の見学のしかた、講師の見方3つ、授業後の説明で確認したいこと、当日に使えるチェックリストを順にお伝えします。塾を疑うための記事ではありません。お子さんに合う塾かどうかを、落ち着いて判断するための記事です。
体験授業は、塾とお子さんが「お互いを確かめる場」
体験授業は、塾にとってはお子さんの現在地を知る機会であり、同時に「うちの授業はこういうものです」と伝える機会でもあります。どちらが良い悪いではなく、双方に目的がある場だと考えておくと、見方が整理しやすくなります。
そのため、体験授業の印象だけで決めると、入塾後に「思っていたのと違った」と感じることがあります。体験の授業はたいてい、お子さんが取り組みやすい内容と進め方で組まれています。普段の授業で毎週続く場面とは、少し違うことがあるのです。
だからこそ、保護者は次の2つを意識しておくと、判断がぶれにくくなります。
- 授業の楽しさや雰囲気だけでなく、講師の関わり方を見る
- 授業後の説明で、お子さんの現状と今後の見通しがどれだけ具体的に語られたかを聞く
埼玉県の公立高校入試は、中学校の成績をまとめた調査書の点(内申点)と、学力検査の両方が合否に関わります。2027年(令和9年度)入試からは、学力検査にマークシート方式が取り入れられることも、埼玉県から発表されています。マークシート方式の導入後も、出題の基本方針は原則として現行どおりとされています。
私立高校を併願する場合は、埼玉で広く行われている「確約」も関わってきます。確約とは、北辰テストの偏差値や内申点が各高校の示す基準を満たしたときに、個別相談会などで合格の見通しを伝えてもらえる仕組みです。基準は学校ごと、年度ごとに違うため、講師がこうした埼玉の事情を日頃から把握しているかどうかは、塾を選ぶうえで大切な材料になります。
保護者はどこから、何を観察すればいいか
体験授業では、保護者は教室の後ろや、別室のモニター越しに見学することが多いです。お子さんの表情や講師の顔を正面から見るのは難しい、というのが現実です。そこで、後ろからでも確かめられることに絞って見ていきましょう。
見学するときの工夫
- 可能であれば、お子さんの斜め後ろなど、講師とお子さんの両方が少し見える位置に座らせてもらう
- お子さんの手が止まっている時間が、どのくらい続いたかを背中越しに見る
- 講師がお子さんの手元やノートをのぞき込みに来る頻度を、数えてみる
- 講師の声のトーンや間の取り方(急かしていないか、待っているか)を聞き取る
「見えないから仕方ない」と考えず、後ろからでも拾える情報に絞ると、体験授業から得られるものがぐっと増えます。見学が難しい形式の塾なら、授業後に「どんな様子でしたか」と具体的に聞いてみるのも一つの方法です。
なお、見学の位置や録音・撮影の可否は、塾によってルールが違います。事前に「見学できますか」「メモを取ってもいいですか」と確認しておくと、当日あわてずにすみます。
講師の見方①〜③:声かけ・理解度の把握・つまずきへの対応
ここからは、講師の関わり方を見る3つの視点です。どれも、特別な知識がなくても確かめられます。
見方①:声かけは、お子さんの様子に合わせて変わっているか
まず、講師がお子さんにどんな声をかけているかを見ます。大切なのは言葉の中身そのものより、お子さんの様子に応じて声かけが変わっているかという点です。「すごいね」「いいね」といった言葉は、どんな生徒にも同じように使えてしまいます。
声かけのタイミング
- 安心できる例:お子さんの表情や手の動きを見て、詰まったところで自然に声をかける
- 確認したい例:一定の間隔で、機械的に声をかけている
声かけの中身
- 安心できる例:「どこがわかりやすかった?」など、理解の中身を確認する
- 確認したい例:同じ褒め言葉が何度も繰り返される
待つ姿勢
- 安心できる例:お子さんが黙っていても急かさず、少し待ってから別の角度でヒントを出す
- 確認したい例:反応がないとすぐ答えを言ってしまう
もちろん、体験授業では講師も緊張していますし、お子さんも普段どおりではありません。1つ2つ当てはまらない点があっても、すぐに判断を下す必要はありません。全体の傾向を見てください。
見方②:理解度を確かめながら進めているか
次に、講師がお子さんの理解度を確かめながら授業を進めているかを見ます。特に参考になるのが、お子さんが間違えた場面、詰まった場面です。
理解度の確認
- 安心できる例:「ここまでで大丈夫?」とこまめに確認する
- 確認したい例:決められた内容を、一方的に進める
つまずきへの対応
- 安心できる例:別の例えや解き方を用意して、原因(計算ミスなのか、理解不足なのか)を切り分ける
- 確認したい例:同じ説明を、そのまま繰り返す
ペースの調整
- 安心できる例:お子さんのペースに合わせて、その場で難易度や進め方を変える
- 確認したい例:用意された流れどおりにしか進められない
つまずきの原因を切り分けようとする講師は、普段の授業でも一人ひとりの理解度に合わせた指導をしてくれる可能性が高いと考えられます。ただし、これは「可能性」であり、保証ではありません。体験は1回きりなので、断定はせず参考にとどめてください。
見方③:お子さんの「言葉」を引き出しているか
もう一つ、見落とされがちな点があります。講師が一方的に説明するだけでなく、お子さんに自分の言葉で説明させたり、考えを聞いたりする場面があるかどうかです。
「どうしてこの答えになったの?」と聞かれて、お子さんが説明できる授業は、理解の穴が見つかりやすくなります。授業中に、お子さんが話す時間がまったくない場合は、授業後に「普段の授業でも発言する機会はありますか」と確認してみましょう。
特に個別指導では、お子さんがつまずいた場面で講師がどう関わるかが、授業の質を左右します。集団授業では、手を挙げにくいお子さんへの目配りが、どこまでされているかを見てください。
授業後の説明で確認したいこと:埼玉の入試に合った話か
体験授業のあとには、多くの塾で保護者向けの説明や面談の時間があります。ここでは、「良い話ばかりでないか」だけでなく、埼玉県の入試制度に沿った具体的な話ができているかを確かめます。
次のような話題が、塾の担当者から具体的に出てくるかを聞いてみてください。
- 内申点(調査書点)を確保するための、定期テスト対策の具体的な進め方
- 北辰テストの結果を、学年ごとにどう指導に生かしていくか
- 私立高校の確約の仕組みと、それを踏まえた併願校の考え方
- お子さんの現状と、目標とする学校までの距離についての見立て
これらにまったく触れず、「大丈夫です、伸びます」といった言葉が中心になっている場合は、もう少し具体的に聞いてみる価値があります。伸びる見込みがあるのなら、その根拠や進め方を説明できるはずだからです。
説明の具体性
- 安心できる例:良い点だけでなく、課題や弱点にも具体的に触れる
- 確認したい例:課題の話が一切出てこない
入試への理解
- 安心できる例:内申点・北辰テスト・確約といった用語を使って、お子さんの状況に当てはめて説明する
- 確認したい例:全国どこでも通用する一般論だけで終わる
案内の姿勢
- 安心できる例:今後の見通しを、期間や目標とあわせて示す
- 確認したい例:「今月中の入塾なら特典が」といった案内が、説明の中心になっている
入会特典や期間限定の案内そのものが悪いわけではありません。ただ、お子さんに合うかどうかを決める前に、期限だけを強調されたと感じたときは、「持ち帰って家族と相談します」と伝えて大丈夫です。
体験授業の時点で「定期テスト対策はどのように進めますか」と一言聞いておくと、内申点の対策を塾で扱うのか、学校のワークを自分で進めるのが基本なのかを、入塾前に確かめられます。
費用や契約の確認は、別の記事でくわしくまとめています。月謝のほかにかかる費用を、入試までの総額で考える視点も合わせてどうぞ。
体験授業で「集団の進め方だと、うちの子のつまずきには手が回りにくそうだ」と感じたご家庭もあると思います。
体験授業の最後に聞いてみたい質問
時間に余裕があるときは、説明の最後に次の質問を投げかけてみてください。答えそのものより、答え方を見るのがポイントです。
「いまの成績(通知表)だと、どのあたりの高校が視野に入りますか。そのために、次の北辰テストまでに何を優先しますか」
埼玉の入試に日頃から向き合っている講師であれば、いまの成績から現実的な学校の範囲を示し、次の北辰テストでどの教科のどこを伸ばすかを、順序を付けて答えてくれることが多いです。
ここで注意したいのは、確約の基準は学校ごと・年度ごとに違い、塾が先に決められるものではないという点です。「必ず確約が取れます」と言い切る説明よりも、「学校が公表している基準を確認して、個別相談会で正直に相談しましょう」という説明のほうが、現実に合っています。基準が公表されていない学校については、個別相談会で何を確認するのかまで答えられるかを見てみてください。
答えが曖昧だった場合も、その場で結論を出す必要はありません。「他の塾の体験も受けてから決めます」と伝えて、比較してから決めれば十分です。
体験授業の当日に使えるチェックリスト
当日は、気づいたことをメモしておくと、あとで他の塾と比べやすくなります。次のリストをスマートフォンなどに保存して、見学の合間に確認してください。
体験授業 当日のチェックリスト
- お子さんの手元が、少しでも見える位置に座れたか
- 講師の声かけは、お子さんの様子に応じて変わっていたか
- お子さんが詰まったとき、原因を切り分けようとしていたか
- 説明の仕方を、その場でお子さんに合わせて調整していたか
- お子さんが自分の言葉で話す場面があったか
- 保護者への説明で、内申点・北辰テスト・確約など埼玉の入試に触れていたか
- 課題や弱点についても、具体的に触れていたか
- 費用の総額と、含まれるもの・含まれないものを説明してもらえたか
- 入塾を急がせる案内が、説明の中心になっていなかったか
- お子さん自身は、「また行きたい」と言っているか
最後の項目は、お子さんの気持ちを確かめる大切な項目です。授業のあと、お子さんには「どこがよかった? 気になったところは?」と、評価ではなく感想として聞いてみてください。
塾の選び方や面談での聞き方は、ほかにもあります。夏期講習や講座の説明の聞き方も、体験授業の延長として役に立ちます。
体験授業についてよくある疑問
Q. 体験授業は何回くらい受けさせるべきですか?
可能であれば、2回以上をおすすめします。1回目は緊張もあり、本来の様子が見えにくいことがあります。2回目以降で、お子さんの反応や講師の対応を比べると、実態がつかみやすくなります。2回目が難しい場合は、別の曜日や別の先生の授業を体験できないか、塾に聞いてみてください。
Q. 集団授業と個別指導で、見るポイントは違いますか?
基本の視点は共通です。そのうえで、集団授業では「一人ひとりへの目配りがどこまでできているか」を、個別指導では「理解度に応じた進め方ができているか」「担当講師が替わる場合の引き継ぎはどうなっているか」を見ると、違いがわかりやすくなります。
Q. 体験授業のあとの勧誘が強いとき、どう断ればいいですか?
「他の塾の体験も受けてから、家族で相談して決めます」と、比較検討中であることをはっきり伝えれば大丈夫です。その場での即決を求められても、持ち帰って検討する姿勢を崩さないでください。契約書類を受け取ったときは、解約の条件や返金の扱いを読んでから署名しましょう。
Q. 兄弟姉妹の下の子にも、同じ見方は使えますか?
使えます。学年やお子さんの性格によって具体的な声かけは変わりますが、「観察力」「理解度への対応」「説明の誠実さ」の3つの視点は、学年を問わず共通して使えます。
Q. お子さんが「楽しかった」と言っているのに、私が不安を感じるのはおかしいですか?
おかしくありません。お子さんの「楽しかった」は大切な情報ですし、保護者が感じた不安もまた大切な情報です。どちらかを無視せず、チェックリストで具体的に確かめてから決めてください。
まとめ:体験授業は「講師の関わり方」と「説明の具体性」で判断する
体験授業は、お子さんに合う塾かどうかを確かめる貴重な機会です。楽しさや雰囲気も大切ですが、それだけで決めず、次の点を振り返ってみてください。
- 講師の声かけが、お子さんの様子に合わせて変わっていたか
- つまずいたとき、原因を切り分けようとしていたか
- お子さんが自分の言葉で話す場面があったか
- 授業後の説明に、内申点・北辰テスト・確約など埼玉の入試の具体的な話があったか
- 課題や弱点にも触れ、費用の総額も説明してもらえたか
- 入塾を急がせる案内が、中心になっていなかったか
この記事の見方は、あくまで判断の手がかりです。1回の体験で塾の良し悪しが決まるわけではありません。気になる点があれば、遠慮せずに塾へ質問してください。誠実に答えてくれるかどうかも、大切な判断材料になります。
まずは、気になっている塾の体験授業の予約のときに、「見学はできますか」「授業後に説明の時間をいただけますか」と聞いてみましょう。そのうえで、上のチェックリストを手に当日を迎えてください。複数の塾を同じ項目で比べて、最後はお子さん自身の気持ちも聞いて、ご家庭で決めれば大丈夫です。
この記事で確認した資料
- 令和9年度埼玉県公立高等学校入学者選抜学力検査問題について(埼玉県)(2025年7月24日発表)






