「塾に週4回も通わせているのに、北辰テストの偏差値がなかなか上がらない」
「隣の子は塾なしなのに、上位の公立校にすっと合格した」
忙しい中で時間もお金もかけているのですから、こうした差を見ると、もどかしく感じるのは当然です。「うちの子には何が足りないのだろう」と悩む保護者の方は少なくありません。
結論から言うと、塾に通っているかどうかは、合否を分ける主な要因ではありません。大きな差になりやすいのは、家庭学習で間違いを振り返り、次の学習を自分で組み立てる「自走力」です。ただし、これは統計で示せる話ではなく、一つの見方です。そのつもりで読んでください。
この記事では、自走力とは具体的に何を指すのか、なぜ埼玉の入試ではそれが問われやすいのか、家庭でどう育てていくかを順に整理します。塾に通うかどうか迷っている方にも、すでに通っているのに伸び悩んでいる方にも、判断の材料になるようにまとめました。
自走力とは何か:塾の有無とは別の話
ここでいう自走力は、特別な才能や、一人で黙々と勉強できる性格のことではありません。次の3つができている状態を指します。
- 自分が何につまずいているかを、言葉で説明できる
- テストの結果を見て、次に何をどれだけやるかを決められる
- 間違えた問題を、そのままにせず解き直せる
この3つは、塾に通っていても通っていなくても、身についている子とそうでない子がいます。通塾の回数と成績の伸びは、必ずしもきれいに比例しません。通う回数よりも、通った時間をどう使っているかのほうが、結果に表れやすいと考えられます。
逆に、塾に通っていない子でも、学校の授業と問題集、過去問だけで着実に力をつける子はいます。ただし、これは「塾は不要」という意味ではありません。自走力がある子が塾に通えば、授業や自習室をうまく使えるので、より伸びやすいと考えられます。
なお、自走力は「放っておいても勉強する力」ではありません。多くの子は、最初は保護者や先生に支えられながら、振り返りのやり方を覚えていきます。支えがある状態から、少しずつ自分で回せる範囲を広げていく。その過程そのものが、自走力を育てる時間だと考えてください。
そのため、今できていない項目があっても、お子さんの性格や意欲の問題と決めつける必要はありません。やり方を知らないだけ、というケースがほとんどです。次の節で、よくある点検項目を見ていきます。
伸び悩むときの3つの点検項目と、力をつける子の共通点
塾に通っているのに思うように成績が伸びないとき、よく見られる状況があります。責める材料ではなく、点検の項目として使ってください。
伸び悩むとき:授業を受けて終わりになっていないか
授業を真面目に聞き、ノートもきれいに取っている。それでも定着しないときは、授業が「聞く場」で完結していて、その後に自分の頭で解き直す工程が抜けていることがあります。
授業は理解のきっかけにはなりますが、点数につながるのは、あとで自力で解けるようになったかどうかです。家庭では「授業で習った問題を、何も見ずにもう一度解けるか」を確かめる時間が必要になります。
伸び悩むとき:宿題が「こなすもの」になっていないか
出された分を終わらせることが目的になり、丸つけをしても、間違えた問題がそのままになっているケースがあります。この状態だと、学習量は多いのに、同じ間違いが本番でも出てしまいます。
確認したいのは、宿題の量よりも「間違えた問題に、その後もう一度取り組んだか」です。
伸び悩むとき:スケジュールが塾任せになっていないか
「塾が管理してくれているから大丈夫」と考えて、家庭では何をどれだけやればよいのか、本人も保護者も把握していないことがあります。塾のカリキュラムは多くの生徒を想定して作られているため、お子さん一人ひとりの弱点に細かく合わせるには限界があります。
これは塾の良し悪しの問題ではなく、集団で行う授業の性質です。だからこそ、自分の弱点に合わせた調整は家庭側で行う必要が出てきます。
宿題を毎晩遅くまでていねいにこなしていても、丸をつけたら次の宿題に進むだけで、間違えた問題を解き直す時間がなければ、授業で見たことのある形の問題は解けても、少しひねられた北辰テストの問題で手が止まりやすくなります。
その場合は、宿題の量を減らして、間違えた問題を翌日にもう一度解くことを優先してみてください。少しずつ「どこで間違えるか」を自分で言えるようになりますが、この切り替えには時間がかかり、すぐに数字には表れません。学習量そのものよりも、間違いの扱い方に目を向けることが、最初の一歩になります。
塾なしでも力をつける子に見られる共通点
一方で、塾に通わない、あるいは最小限の利用にとどめながら力をつけていく子には、次のような傾向が見られます。もちろん全員に当てはまるわけではありません。
「わからない」を具体的に言える。「なんとなくわからない」ではなく、「この単元のこの考え方が理解できていない」と把握できています。これができると、参考書で調べる、学校の先生に質問する、といった次の行動が的確になり、解決までが早くなります。
学習計画を立て、直せる。北辰テストや定期テストの結果を見て、「次は何にどれだけ時間を使うか」を組み立てられます。最初から上手にできる子は少なく、多くは保護者と一緒に試行錯誤しながら身につけていきます。
間違いを材料として扱える。間違えた問題は、いちばん伸びしろがある部分です。それを分かっている子は、解き直しを面倒がらず、「なぜ間違えたか」を考える時間をとります。間違えた問題だけを集めた自分用のノートを作る子もいますが、方法は人それぞれで、大切なのは「間違いを次に生かす仕組みを自分で持っているか」です。
ここまでの話をチェックリストにまとめます。
自走力の現状チェックリスト
- テストが返ってきたとき、間違えた問題を自分から見直している
- 「どこが難しかった?」と聞かれて、教科や単元を挙げて答えられる
- その日にやる勉強の内容を、自分で決めている日がある
- 解き直しをした問題を、数日後にもう一度解いている
当てはまる数が少なくても、焦る必要はありません。一つずつ増やしていけば十分です。
埼玉の入試で、自走力が問われやすい理由
ここまでの話は、他の都道府県にも通じる一般論です。ただ、埼玉県の入試の仕組みを見ると、自走力がより生きる場面がいくつかあります。
北辰テストは、初見の問題に対応する力が見られる
埼玉の受験生にとって、大きな指標になるのが北辰テストです。授業で習った解き方を、初めて見る問題に当てはめる練習をしていないと、塾の内部テストでは点が取れても、北辰テストで差が出ることがあります。
塾にいた時間の長さよりも、初見の問題にどう向き合ってきたかが、結果に出やすい試験だと考えられます。
北辰テストの判定の見方については、こちらの記事で整理しています。
学校選択問題は、標準問題の先の力を見る
埼玉県の公立入試では、一部の高校が数学と英語で「学校選択問題」を使います。対象になる学校は毎年度、県教育委員会が公表しているので、志望校が実施校かどうかは、県の入試情報ページで確認してください。
学校選択問題は、標準的な問題に加えて、初めて見るタイプの設問を自分で分解して考える力が必要になる出題です。与えられたテキストを順番に進めるだけでは対応しにくく、わからない問題に対して自分で見通しを立てる経験が生きてきます。
また、2027年(令和9年度)入試から、県の発表ではマークシート方式が導入されます。出題形式や配点の割合は、県教育委員会の発表で確認してください。形式が変わっても、問題を読んで考える力が土台になる点は変わりません。
調査書の評価は、中1からの積み重ねが関わる
埼玉県の公立高校入試では、調査書の学習の記録が選考に使われます。中学1年、2年、3年の評定をどの比率で見るかは、高校ごとに決められています。比率は学校によって異なるため、志望校の比率は、県が公表する各校の入学者選抜の実施内容で確認する必要があります。
いずれにしても、受験学年になってから一気に挽回するより、早い時期から自分で学習を管理する習慣があるほうが、負担は軽くなります。
塾を使うなら、自走力を伸ばす使い方を考える
塾は、教材、カリキュラム、経験のある講師がそろった、役に立つ環境です。自走力がある子が使えば、その効果は大きくなります。ただ、塾はあくまで学習の場を提供するものであり、その場を生かせるかどうかは、本人の姿勢と家庭での過ごし方に左右されます。
ですから、成績が伸び悩んだとき、最初に考えたいのは「通う回数を増やすかどうか」ではありません。間違いの振り返りを、誰がどこで支えるかです。
通塾の回数が十分でも、振り返りの時間が家庭にも塾にもないのなら、そこを補う方法を探すほうが近道になります。たとえば、塾の自習室を解き直しの時間として使う、授業の前後に質問の時間をもらう、といった工夫は、費用を増やさずにできます。
それでも家庭で振り返りに付き添う余裕がなく、親には素直に「わからない」と言えない子もいます。そういうときは、解き直しや計画づくりを一緒に見てくれる家庭教師や個別の指導を足すのも、選択肢の一つです。ただし、料金や指導の範囲は塾・家庭教師・通信教育のどれも提供元によって大きく違うので、1か所の説明だけで決めると、妥当かどうかを判断しにくくなります。
家庭でできる、自走力の育て方
自走力は特別な才能ではなく、日々の習慣の積み重ねで少しずつ身についていきます。ただ、中学生は難しい年ごろです。「何をやったの?」と聞いても、「別に」「普通」で会話が終わってしまうことも多いでしょう。ここでは、ハードルを低くしながら取り入れられる方法を紹介します。家庭だけで全部を抱え込む必要はありません。
「どこで詰まった?」と具体的に聞く
「勉強したの?」「何をやったの?」という漠然とした質問は、答えにくく、身構えさせてしまいがちです。代わりに「数学、どこが難しかった?」「北辰の過去問、どの分野が一番時間がかかった?」と、ピンポイントで聞いてみてください。答えやすくなり、会話が学習内容に向かいやすくなります。
点数ではなく原因で振り返る
点数の良し悪しだけで一喜一憂せず、「どの分野で、どんな間違い方をしたか」を親子で一緒に確認する習慣をつけましょう。ケアレスミスなのか、理解不足なのか、時間配分の問題なのかによって、次にやることはまったく変わります。
北辰テストの個人成績票には、小問ごとに受験生全体の正答率が載っています。正答率が高いのに落とした問題を見つけると、振り返りの材料に使えます。
小さな計画から任せる
いきなり「1週間の計画を自分で立てなさい」と言っても難しいものです。まずは「その日に何を何分ずつやるか」を本人に決めさせるところから始め、うまくいったら少しずつ範囲を広げていくのが現実的です。
「わからない」と言いやすい雰囲気をつくる
わからないことを恥ずかしいと感じさせない雰囲気づくりも大切です。保護者が「わからなくて当然。そこからどうするかが大事」という姿勢を見せると、子どもは自分の弱点と向き合いやすくなります。
面談の場でも、お子さんの学習の様子を具体的に伝えると、塾の先生とも話が進めやすくなります。三者面談での伝え方は、こちらの記事も参考にしてください。
学年別に意識したいポイント:中学1・2年生
- 調査書の評価が中1から積み上がる仕組みを踏まえると、この時期に「自分で考えて動く」小さな成功体験を積むことが大切です
- 日々の宿題や定期テストの振り返りを、親子で話すきっかけにしてみてください
- 志望校の評定の比率は、受験学年になってから確認すれば間に合います。まずは習慣づくりから
学年別に意識したいポイント:中学3年生
- 北辰テストや過去問演習が本格化すると、限られた時間の中で優先順位をつける判断力が必要になります
- 保護者は結果だけでなく、「どうやって学習を組み立てているか」というプロセスに目を向けてあげてください
- 私立高校の確約や併願の仕組みも、早めに確認しておくと選択肢が整理しやすくなります
志望校を考えるうえで、周囲の評判や親の経験に引っ張られすぎないことも大切です。その点は、こちらの記事で触れています。
よくある質問
Q. 自走力がほとんどない状態からでも、中3から間に合いますか?
A. 時間は限られますが、間に合わないと決めつける必要はありません。中3からでも、学習計画を細かく区切り、北辰テストの結果を分野別に振り返る習慣を意識して取り入れることで、少しずつ変わっていきます。ただし、中1・中2の評定はすでに決まっているため、早く始めるほど負担は軽くなります。
Q. 塾に通わせるべきか、家庭学習中心にすべきか迷っています。
A. どちらが正解ということはありません。塾は教材やカリキュラムが整った有効な手段ですが、それを生かせるかどうかは、お子さんの取り組み方と家庭での振り返りの有無にかかっています。まず「間違いの振り返りを誰が支えるか」を決めてから、塾を使うかどうかを考えるとよいでしょう。
集団塾では、一人ひとりの間違え方に合わせた振り返りまで手が回りにくいこともあります。その場合は、個別指導や家庭教師を足す方法もありますが、1社で決めずに、複数の内容を見比べて判断してください。
Q. 親はどこまで学習に関わればよいでしょうか。
A. 「代わりにやってあげる」のではなく、「本人が振り返り、判断するための材料を一緒に整理する」姿勢が理想です。最初は関わる割合が大きくても構いません。少しずつ、本人に決めてもらう範囲を広げていきましょう。反抗期で会話が難しい時期は、広い質問よりも具体的な質問のほうが答えを引き出しやすくなります。
中3のご家庭は、入試まで残りの期間が限られています。北辰テストを受けられる回数も限られているので、1回ごとの振り返りを丁寧に行うほど、積み重ねの差になります。中1・中2のご家庭も、今のうちに、振り返りを誰が支えるかを決めておくと、あとが楽になります。
まとめ:塾の有無より、間違いを振り返る仕組みを先に整える
- 合否を分ける主な要因は、塾に通っているかどうかよりも、間違いを振り返って次につなげる自走力だと考えられます
- 北辰テストや学校選択問題では、初めて見る問題に自分で向き合う経験が生きてきます
- 調査書の評定は中1から積み上がり、学年の比率は高校ごとに違うので、志望校の比率は県の発表で確認します
- 塾に通っていても伸び悩むときは、通う回数を増やす前に、振り返りを誰が支えるかを決めます
- 家庭では「どこで詰まった?」と具体的に聞くところから始め、小さな計画を本人に任せていきます
まず取り組みたいのは、お子さんに「どこで詰まった?」と一つだけ聞いてみることです。答えが返ってこなくても、聞き続けること自体が、振り返りの習慣づくりの第一歩になります。
そのうえで、家庭だけでは振り返りが回らないと感じたら、塾の使い方を見直す、外部の力を借りる、といった選択肢を、落ち着いて比べてみてください。






