「どの塾も『難関校に多数合格』と書いてあって、違いがわからない」
「合格者の数が多い塾のほうが、やっぱり安心なのでしょうか」
仕事や家事の合間に何か所も塾を見て回るのは大変です。時間が限られているからこそ、目に入りやすい数字を頼りにしたくなるのは、ごく自然なことだと思います。
結論から言うと、塾の合格実績は、そのままでは塾どうしを比べる物差しになりません。集計の範囲が塾ごとに違うからです。数字を疑う必要はありませんが、「何を数えた数字なのか」を確かめてから見ると、判断がずっと楽になります。
この記事では、合格実績の数字が何を数えたものなのか、見るときにどこを確認すればよいのか、面談では何を聞けばよいのかを順に整理します。特定の塾を批判する記事ではありません。同じ物差しで比べるための材料にしてください。
合格実績は誰が作った数字なのか
まず知っておきたいのは、塾のチラシやホームページに載る合格実績は、各塾が自分で集計して自分で発表している数字だということです。県や教育委員会が集めて確認した公式データではありません。
業界にまったくルールがないわけではありません。公益社団法人全国学習塾協会が、合格実績の表示について「合格実績自己適合宣言」の仕組みを設けています。ただし、基準の中身は改定されることがあり、すべての塾が同じ基準で数えているとは限りません。気になる方は、協会の公式サイトで現在の内容を確認してください。
つまり、「どこまでを実績に含めるか」は、塾ごとの考え方に委ねられている部分が大きいということです。同じ「合格50名」でも、中身がまったく違うことがあります。
なぜ実績が目立つ形で載るのか
これは責める話ではなく、仕組みの話です。塾にとって合格実績は、教育の成果の報告であると同時に、新しく入塾してもらうための案内でもあります。二つの役割がある以上、できるだけ大きく、わかりやすく載せたいと考えるのは自然なことです。
そのため、保護者の側は「載っている数字は、その塾が選んだ見せ方の数字」と理解して読むのが安全です。1か所の説明だけで決めず、2〜3か所を同じ項目で比べる。これは塾に限らず、お子さんの学びを誰かに任せるときの基本です。
数字を読むときの基本姿勢は、「大きいか小さいか」ではなく「何を数えた数字か」を見ることです。この視点があれば、派手なポスターを前にしても、落ち着いて質問を考えられます。逆に、数字が控えめな塾を過小評価することも防げます。人数が少ない教室でも、一人ひとりの様子を見て、丁寧に実人数を答えてくれるところはあります。
また、合格実績は「過去に通った生徒の結果」であって、これから入るお子さんの結果を約束するものではありません。お子さんの今の学力、志望校、性格に合う指導かどうかは、実績とは別に、体験授業や面談で確かめる必要があります。
数の見せ方で確認する3つのこと
ここからは、合格者の「数」を読むときに確認したい点を3つ挙げます。どれも不正という意味ではなく、数え方によって数字の意味が変わるという話です。
確認①:のべ人数か、実人数か
最も多いのが、のべ人数での表示です。たとえば「難関校に150名合格」と書いてあっても、一人の生徒が複数の学校に合格した分を、1校ごとに1件として足している場合があります。
埼玉では私立の併願が一般的なので、一人が2〜3校に合格することは珍しくありません。のべ人数と実人数では、数字が大きく変わりえます。
チラシを見るときは、「合格者数」だけでなく「その年の中3生は何名だったか」「実人数では何名か」をセットで考える癖をつけてください。
確認②:その校舎の数字か、グループ全体の数字か
「〇〇高校 合格者数」が、近所の校舎ではなく、県内の複数校舎を合計した数字であることもあります。見学に行く校舎の生徒が何人合格したのかは、チラシだけではわかりません。
大きなグループでは、特進コースや特定の校舎に生徒が集まっていることもあります。通わせる予定の校舎の数字を、面談でそのまま聞いてみましょう。数字がその場で出てくるか、後日の回答になるかも、一つの判断材料になります。
確認③:どの生徒までを数えているか
通常の授業を受けていた生徒だけでなく、夏期講習や冬期講習だけ受けた生徒、模試だけ受けた生徒、映像授業だけの生徒を含める塾もあります。どの範囲を含めるかは塾によって違います。
講習だけ参加した生徒の合格を含めれば、その塾の授業で伸びたかどうかとは別の要素が入ります。「通常授業の在籍生に限った数字か」を聞いておくと、数字の意味がはっきりします。
質の見せ方で確認する3つのこと
数が同じでも、合格の「中身」が違えば意味は変わります。埼玉の入試制度を知っていると、見え方が変わるポイントです。
確認④:確約による合格と、一般入試での合格は分かれているか
埼玉の私立高校には、内申点や北辰テストの偏差値が学校の示す基準に達していれば、入試前に合格の見込みが伝えられる「確約」の仕組みがあります。基準は学校ごと、コースごとに違い、公表されていない場合も多くあります。基準の見方は、こちらの記事で整理しています。
→ 内申・北辰の確約基準一覧【2027年入試】埼玉私立の学校別
確約による合格も、れっきとした合格です。実績に含めること自体は間違いではありません。ただ、確約での合格と、公立上位校の学校選択問題など一般入試で得点して取った合格は、求められる力が違います。
私立の確約合格が多い塾が、公立上位校の入試に強いとは限りません。逆に、確約合格の人数が少なくても、公立上位校への指導が丁寧な塾もあります。志望校が私立か公立上位校かによって、見るべき数字が変わる。ここが一番大切なポイントです。
公立上位校を考えているなら、「確約を使わず、一般入試で合格した人数」を聞いてみてください。内訳を分けて説明してくれる塾は、数字の意味を伝える姿勢があると言えます。
確認⑤:「偏差値〇〇から合格」の「入塾時」はいつか
「入塾時の偏差値から〇ポイントアップ」という紹介もよくあります。ここで確かめたいのは、どの回の北辰テストを「入塾時」としているかです。
北辰テストは回によって、科目によって、偏差値に幅が出ます。たまたま低かった回を起点にすれば、伸び幅は大きく見えます。逆に、起点の回が違えば、同じ生徒でも印象が変わります。
個別のお子さんの成績の推移を、回ごとに並べて見せてもらえるかどうかを確認しましょう。推移を並べて見せてくれる塾なら、数字の背景まで説明してもらいやすくなります。
確認⑥:「難関校」の線引きはどこか
「難関校合格者続出」の「難関校」に、決まった定義はありません。上位の公立校や私立の最上位コースだけを指す塾もあれば、もう少し幅広い学校までひとくくりにする塾もあります。
面談では「こちらで言う難関校とは、具体的にどの学校を指しますか」と聞いてみてください。学校ごとの偏差値の目安は、次の記事にまとめてあります。塾の言う「難関校」が、どのくらいのレベルの話なのかを自分で把握しておくと、説明を冷静に聞けます。
ここまでの6つの確認事項は、どれも一度に全部を完璧に聞く必要はありません。時間が限られているときは、まず「実人数」「通う校舎の数字」「確約と一般入試の内訳」の3つに絞って聞くだけでも、塾どうしの違いが見えやすくなります。
聞くときの言い方も大切です。問い詰めるような口調ではなく、「比べて検討したいので、教えてください」と伝えれば、多くの塾は丁寧に答えてくれます。質問への対応そのものが、入塾後に保護者の疑問へどう向き合ってくれるかの目安にもなります。
仮の数字で見る、数字の中身で変わる印象
抽象的な話だけではわかりにくいので、仮の数字で考えてみます。特定の塾の話ではなく、数え方の違いを示すための例です。
- ある校舎の中3在籍生:20名
- 全員が私立を3校ずつ併願して合格:20名 × 3校 = のべ60件
- 他塾がメインで、夏期講習だけ参加した生徒の合格:5件
- 同じグループの別校舎の合格:10件
すべてを足すと「合格実績75」と書けますが、この校舎の通常授業の在籍生20名の合格として見ると、印象はかなり違います。数え方のルールを知らないまま「75」だけを見ると、実際の規模より大きく受け取ってしまいます。
これも、数字を盛っていると決めつける話ではありません。どの範囲を数えたのかが書かれていないと、比べようがない、というだけの話です。
ポスターの数字だけで選ばず、「この教室だけの、今年の中3の在籍者数と、合格者の実人数を教えてください」と面談で聞いてみると、その場で数字が出る教室もあれば、後日の回答になる教室もあります。答えが早い教室なら成績が上がる、とまでは言えませんし、後日の回答になったことにも事情があるかもしれません。ただ、質問への答え方も判断材料に加えて、数字の中身を確かめてから選ぶと、入塾後に「ここでよかったのか」と迷ったときにも、落ち着いて考え直しやすくなります。
面談で聞きたい5つの質問
ここまでの確認事項を、面談で使える質問にまとめます。メモして持っていくと便利です。
- この校舎単体で、今年度の中3の在籍者数と、合格者の実人数(のべ人数ではなく)を教えてください
- 公立上位校に合格した生徒のうち、確約を使わず一般入試で合格した人数はどのくらいですか
- 入塾時から北辰の偏差値がどう推移したか、個別の記録を見せてもらえますか
- こちらで言う「難関校」とは、具体的にどの学校を指していますか
- 講習会だけの参加生や、他校舎・映像授業のみの生徒の実績は含まれていますか
この5つに具体的な数字で答えてくれる塾は、実績の管理が整っていると考えやすいでしょう。答えが曖昧だった場合も、すぐに「ここは避ける」と決める必要はありません。事情を聞いたうえで、他の選択肢と並べて判断してください。
比べるときのチェックリスト
- 実人数と在籍者数が併記されているか
- 通う予定の校舎単位の数字を説明してもらえるか
- 確約での合格と一般入試での合格が分けて説明されているか
- 「入塾時」の偏差値がいつの北辰かを示してもらえるか
- 「難関校」の範囲を具体的に説明してもらえるか
この一覧は、1か所だけを見ていても使いにくいものです。2〜3か所を同じ項目で並べてみて、はじめて違いがはっきりします。体験授業での見方は、こちらの記事も参考にしてください。
集団塾の数字に引っかかりを感じたとき、選択肢は別の集団塾だけではありません。苦手な科目だけ1対1の指導を足す、という方法もあります。ただ、家庭教師も会社によって料金や講師、対応が大きく違います。1社の説明だけで決めると、その内容が妥当かどうかを判断できません。チラシの数字だけで塾を決めるのと同じ構図です。
そこで、先に複数社の資料を手元で見比べてから話を聞く順番が安全です。
よくある質問
Q. 合格実績が大きく載っている塾は、避けたほうがいいのですか?
A. そういうわけではありません。実績をわかりやすく載せている塾でも、指導がしっかりしているところは多くあります。大切なのは、数字をうのみにせず、実人数や校舎単位の数字、内訳を確認してから判断することです。確認すれば、実績は十分に参考材料になります。
Q. 確約で合格した生徒は、実績に含めるべきではないのですか?
A. 確約合格も正式な合格ですので、含めること自体は問題ありません。確かめたいのは、確約での合格と一般入試での合格が分けて説明されているかどうかです。志望校が公立上位校なら、一般入試での合格人数のほうが参考になります。
Q. 北辰テストの偏差値は、どこで確認すればよいですか?
A. 北辰テストの成績表で、お子さんの偏差値や志望校の判定を確認できます。志望校の合格の目安は学校や年度で変わるため、その年の情報を学校や塾の説明会、公式の発表で確かめてください。
まとめ:数字の「中身」を確かめてから比べる
- 合格実績は、各塾が自分で集計して発表している数字。数え方は塾ごとに違う
- 数は「のべか実人数か」「校舎単位かグループ全体か」「どの生徒まで含むか」を確認する
- 質は「確約と一般入試の内訳」「入塾時の偏差値の起点」「難関校の線引き」を確認する
- 面談では5つの質問を使い、答え方も含めて2〜3か所を同じ項目で比べる
塾の合格実績は、すべてが信用できないわけではありません。ただ、数字の見せ方は塾の考え方に左右されます。大切なお子さんの時間と、決して安くない費用を預ける相手を選ぶのですから、数字の中身を一歩踏み込んで確認する価値があります。
数字が見やすいかどうかではなく、数字の意味を説明してもらえるかどうかを見る。それだけで、塾選びの納得感はずいぶん変わります。まずは、気になっている塾の面談で5つの質問を聞いてみてください。そのうえで、お子さんに合う環境かどうかを、複数の選択肢と並べて考えれば十分です。転塾を考えている場合は、こちらの記事も参考になります。






