【埼玉】確約の基準が上がった?少子化なのに私立が強気な理由

「うちの子の代から、去年より確約の偏差値が上がっている気がする…」

秋の個別相談会シーズンになると、こういうご相談を本当によくいただきます。埼玉県内の大手学習塾で10年間、高校受験指導をしてきた経験から言うと、この「体感」はあながち間違っていません。ただし、その理由を「少子化なのに強気だな」で片付けてしまうと、本質を見誤ります。

今日は、埼玉県特有の「確約」制度がなぜ今、強気な設定になっているのか。最新の入試データ、学校ごとの応募状況、そして制度の裏側にある県の動きまで、忖度なしで深掘りします。長くなりますが、三者面談の前にぜひ最後まで読んでください。

そもそも「確約」とは何か。他県にはない埼玉のルール

前提として、埼玉県の私立高校入試には「確約」と呼ばれる独特の慣行があります。夏以降に開催される私立高校の個別相談会に、北辰テストの成績表や通知表(内申点)を持参すると、学校側から「安心して受験してください」「この成績なら過去に落ちた例はありません」といった形で、事実上の合格保証をもらえる仕組みです。

正式な制度名ではなく、学校側も公の場では「確約」という言葉を使いません。業者テストの結果を入学者選抜に使わないよう求める1993年の文部科学省通知に触れる恐れがあるためで、建前上はあくまで「調査書・アピール資料(=北辰テストの成績など)・当日の試験の総合判断」という立て付けになっています。しかし現場の実感としては、北辰偏差値と内申点の組み合わせが、事実上の合否ボーダーラインを決めていると考えて差し支えありません。1993年の通知から数えても、この慣行はすでに30年以上にわたって続いていることになります。

重要なのは、これは埼玉だけの慣行だという点です。東京都内の私立高校には「確約」という制度自体がなく、代わりに通知表の評定が一定基準を満たせば合格率が高くなる「優遇」制度(推薦入試の一種)があります。また埼玉県内でも、慶應義塾志木、早稲田大学本庄、立教新座といった難関大学附属校の多くは確約制度を設けておらず、入試一発勝負です。つまり「確約」は、埼玉の中堅〜上位私立校が生徒を早期に囲い込むために発達させてきた、独自の商習慣に近いものだと理解しておくと見通しがよくなります。

数字で見る「少子化」と「公立離れ」の実態

まず前提となるデータを整理しておきます。埼玉県教育委員会の発表によると、2026年3月の中学校等卒業予定者数は約6万2,210人で、前年から338人減少しました。これだけ見れば「受験生の絶対数が減っている」だけの話に見えます。

しかし本当に注目すべきは、その先です。埼玉県教育委員会が発表した2026年度(令和8年度)の公立高校入学者選抜一般募集では、全日制課程の入学許可予定者数34,603人(前年度35,001人)に対し、志願確定者数は35,976人(前年度38,587人)にとどまり、志願確定倍率は1.04倍(前年度1.10倍)まで低下しました。前年度からの下落幅0.06ポイントに加え、志願確定者数そのものが前年より2,611人も減っています。

さらに、県内公立中3生徒数に対する公立高校(全日制)志願者数の割合、いわゆる「実質公立志願率」は62.0%で、前年度の65.9%から3.9ポイントも下落しました。2022年度の67.7%から数えると、わずか4年間で5ポイント以上も下がっている計算です。受検倍率(実受検者数÷入学許可予定者数)も1.04倍(前年度1.10倍)、実質倍率は1.11倍(前年度1.16倍)といずれも低下しています。当日の欠席者数も195人(前年度92人)と大幅に増えており、これは検査当日に別の進路、主に私立高校の入学手続きへ流れた受験生が増えていることを示す、わかりやすいサインです。

埼玉県教育委員会自身も、この倍率下落の要因として、国の高等学校等就学支援金制度の大幅拡充(2026年度からの所得制限撤廃・私立高校への支援上限年額45万7,200円への引き上げ)によって私立と公立の費用差が実質的に縮小したことを挙げています。つまり埼玉の高校受験では今、「少子化による受験生減少」と「無償化による公立離れ」という、性質の異なる2つの縮小が同時に進んでいるのです。

なぜ私立は基準を下げないのか。埋もれがちな4つの構造

① 授業料無償化の拡大で「私立を選べる家庭」が急増した

最大の要因は、前述の高等学校等就学支援金制度の拡充です。2025年度までは、私立高校向けの加算支給(就学支援金)に世帯年収による所得制限がありました。ところが2026年度からはこの所得制限が撤廃され、支給上限額も全国平均授業料水準である45万7,200円まで引き上げられます。私立の通信制課程についても、2026年度から年収制限なしで年33万7,200円までの支援が受けられるようになりました。

これに加えて、埼玉県も独自の上乗せ補助(父母負担軽減事業補助金)を用意しています。2025年度(令和7年度)の実績では、以下のような補助が行われました。

  • 年収500万円未満:施設費等納付金20万円+授業料の一部
  • 年収590万〜720万円未満:授業料29万1,200円
  • 年収609万円未満:入学金10万円(1年生のみ別枠補助)

※2026年度(令和8年度)もこの上乗せ補助制度自体は継続されていますが、所得区分や金額は年度ごとに見直されるため、上記はあくまで前年度実績としての目安と捉え、最新の基準は埼玉県学事課「学費軽減ヘルプデスク」(048-830-2725)や志望校に必ず確認してください。

国の支援金と県の補助金を組み合わせることで、これまで「学費がネックで私立は選べない」と考えていた中間所得層の家庭にとって、私立高校が急速に現実的な選択肢に変わりました。

この変化は、実際の応募状況にはっきり表れています。2026年度入試では、叡明高校・聖望学園高校・山村学園高校・秀明英光高校などで、前年より100名を超える応募者数の増加が見られました。特に叡明高校については、進路希望状況調査の傾向から、川口北・川口市立・越谷南・草加・草加南・草加東といった近隣の公立高校を検討していたであろう受験生が、私立へシフトした可能性が指摘されています。

つまり私立高校側から見れば、受験生の総数(パイ)は縮んでいても、自校を現実的な選択肢として検討してくれる家庭の母数はむしろ増えている、という状況が起きているわけです。生徒の奪い合いに勝つために基準を下げる必要性が薄れれば、確約基準を無理に緩める理由もなくなります。

② 「選ばれる私立」への転換。人気校ほど基準を維持・強化している

無償化によって「学費の安さ」という差別化要因が薄れたことで、私立高校同士の競争は、大学合格実績やコース編成、ブランド力を巡る競争へと軸足が移っています。この結果、もともと人気の高い学校ほど、確約基準を安易に下げて生徒層を広げるより、一定の学力層に絞り込んで実績を守る戦略を取る傾向が強まっています。

2025年度(令和7年度)入試の結果を見ると、この二極化がすでに具体的な数字として現れていました。出願基準を引き上げた浦和実業や花咲徳栄では応募者数が減少した一方、同じく基準を引き上げたにもかかわらず、浦和麗明や国際学院といった人気校では応募者数がむしろ増加しました。さらに栄東や開智では、併願2回目・3回目の入試で応募者数が前年比2割前後増加するという結果も出ています。「基準を上げれば必ず応募が減る」という単純な図式が、すでに人気校では成り立たなくなっていたわけです。

一方、慶應義塾志木の入試結果(学校公式発表)を確認すると、2026年度入試の一般入試志願者数は1,119人で、前年度の1,126人からほぼ横ばい(微減)でした。自己推薦の志願者は123人から141人へ増加していますが、これは同時に自己推薦の募集人員を約40名から約50名へ増員したことも影響しています。なお一般入試の募集人員は約190名から約180名へ絞り込まれました。この数字を見る限り、慶應義塾志木のような確約制度のない最難関の大学附属校は、無償化による「新規流入層」の影響をあまり受けておらず、もともと安定した高い人気を保ち続けていると考えられます。

つまり「無償化で私立全体が一律に強気になった」のではなく、①もともと確約制度自体がない最難関の付属校(無償化の影響を受けにくい)、②確約基準を上げても選ばれ続ける人気校、③生徒確保のために基準を据え置く・緩和する中堅校という、3層構造での二極化が進んでいると理解するのが実情に近いでしょう。

参考までに、この構造を理解するうえで基準となる、北辰偏差値で見た埼玉県公立高校の上位ラインを確認しておきましょう。

学校名(学科) 北辰偏差値
大宮高校(理数) 72
大宮高校(普通)/県立浦和高校(普通) 70
浦和第一女子高校(普通) 69
市立浦和高校(普通) 68
県立川越高校(普通) 67
越谷北高校(理数)/春日部高校(普通) 66
川越女子高校/蕨高校/所沢北高校(理数) 65

このあたりの公立最難関ラインと本気で併願を争うことになる私立上位校(栄東、開智、大宮開成、淑徳与野など)は、無償化の恩恵で応募者の母数自体が増えているため、確約ラインを下げる必要性が乏しいのが実情です。一方で、偏差値55〜60台に相当する中位の私立校では、生徒確保のために基準を据え置く、あるいは内申点との組み合わせで柔軟に対応するケースも見られ、学校ごとの温度差がはっきり広がっています。

③ 学校選択問題という「もう一つの関門」が上位校の重みを増している

埼玉県の公立高校入試には、英語と数学の2教科のみ、通常より難易度の高い独自問題を使う「学校選択問題」という制度があります。2017年度に導入され、2026年度は22校が実施しています(浦和、浦和第一女子、浦和西、大宮、春日部、川口北、川越、川越女子、川越南、熊谷、熊谷女子、熊谷西、越ヶ谷、越谷北、所沢、所沢北、不動岡、和光国際、蕨、市立浦和、大宮北、市立川口)。主に北辰の合格者平均偏差値が60を超える学校で採用されており、共通問題で高得点が取れる生徒でも学校選択問題では点数が伸び悩む、というケースが珍しくありません。

2026年度入試でも、学校選択問題実施校を中心に高倍率が継続しており、普通科で最も高い倍率だったのは市立浦和で1.92倍(前年度1.88倍)、専門学科で最も高かったのは大宮高校理数科の2.03倍でした。大宮高校普通科も1.59倍(前年度1.51倍)と3年連続で倍率が上昇しています。この「公立上位校のハードルの高さ」があるからこそ、それに匹敵する私立難関校を確約なしの一発勝負ではなく、確約という形で早期に押さえておきたいというニーズが根強く残るわけです。学校選択問題対策と確約対策は、実は同じ生徒の中でセットで語られるべきテーマだということを覚えておいてください。

④ 県の実態調査と、特待生をめぐる「給付型奨学金」問題

もう一つ見逃せないのが、2025年10月に埼玉県が県内すべての私立高校を対象に行った、確約・特待制度に関する実態調査です。きっかけは、一部の私立高校が特待生に対して、家庭の所得にかかわらず入学金・授業料相当額をそのまま給付する「給付型奨学金」を提示していたことが、2025年9月末に朝日新聞などで報道され、注目を集めたためです。報道によれば、さいたま市内のある私立高校は「北辰偏差値72で第一志望なら、110万円の奨学金を給付する」という基準を掲げていたとされています。私立高校の無償化がさらに進むことで、従来の特待生制度(授業料免除)が生徒確保の特典として使いにくくなり、給付型の奨学金でアピールする動きが強まったというのが背景です。

これを受け、文部科学省は改めて、業者テストの結果を基に入学者を選抜することは不適切との立場を示し、埼玉県も2025年10月6日付で私立各校に「速やかな改善を求める通知」を送付、10月14日までの回答を求めました。短期間での調査依頼だったことからも、県がこの問題を重く見ていることがうかがえます。

この調査を受け、今後は確約や特待制度の運用方法そのものが見直される可能性はあります。しかし現実には、2026年度入試(2026年1〜3月実施)の時点でも確約の仕組み自体はこれまで通り機能しました。1993年の通知から30年以上続く慣行を一気に変えるのは難しく、少なくとも2027年度入試までは大枠が維持されるのではないかとする指摘もあります。

むしろここで注目すべきは、県の実態調査が私立高校側への一種の「牽制」として機能したという点です。行政の目が入ったことで、無償化を背景とした「安易な基準引き下げによる青田買い」は事実上やりにくくなりました。結果として、この調査そのものが「確約基準の高止まり(下がりにくい状況)」を裏面から後押ししている、という構造で捉えることができます。

保護者が今、意識しておきたい5つのポイント

以上を踏まえると、「少子化だから私立は生徒集めに必死で、基準は下がるはず」という思い込みは、埼玉に関してはむしろ危険です。私が現場で見てきた限り、保護者が押さえておくべきポイントは次の5つです。

  1. 偏差値だけでなく内申点との組み合わせを必ず確認する:多くの学校で「偏差値〇〇以上、または内申〇〇以上」「偏差値〇〇かつ内申〇〇以上」のように条件が組まれています。北辰偏差値が基準に届いていても、内申点次第で確約が出ないケースは珍しくありません。
  2. 単願か併願かで基準が変わることを前提に情報を集める:一般的に単願(その学校が第一志望)の方が基準は下がりやすい傾向があります。併願前提で相談に行くと、想定より厳しい基準を提示されることがあります。
  3. 人気校は「基準を上げても応募が減らない」ことを前提に動く:浦和麗明や国際学院のような人気校は、基準引き上げが応募者減につながらなかった好例です。「去年の情報」だけを頼りに安心しないでください。
  4. 無償化や給付型奨学金の条件は、学校ごとに必ず金額ベースで確認する:無償化拡大や特待制度の運用は年度によって変わり得ます。個別相談会では、国の支援金・県の補助金・学校独自の奨学金がそれぞれいくらで、重複適用できるのかを具体的な金額で確認しましょう。
  5. 英検などの加点制度を早めに調べる:学校によっては英検などの資格を確約基準の加点材料として使えるケースがあります。中3の夏を待たず、中2のうちから取得計画を立てておくと選択肢が広がります。

北辰テストは、単なる模試ではなく「私立入試の合否を左右する交渉材料」です。7月以降の回だけでなく、早い段階から自分の立ち位置を把握しておくことが、確約という埼玉特有のゲームで損をしないための第一歩になります。

よくある質問

Q. 確約は法律や県の制度として正式に認められているのですか?

A. いいえ。「確約」という言葉自体が公式な制度名ではなく、学校側も「安心できる判定です」といった婉曲な表現で伝えるのが一般的です。業者テストを基準にした選抜は1993年の文部科学省通知に抵触する恐れがあり、県も2025年10月から実態調査を進めている段階です。

Q. 確約をもらったのに不合格になることはありますか?

A. 基本的にはありません。ただし、入試当日に答案を白紙で出す、著しく態度が悪いといった極端な場合は不合格になり得ると言われています。あくまで「調査書・アピール資料・当日の試験の総合判断」という建前が守られている点は理解しておきましょう。

Q. 公立と私立、両方に確約(優遇)を取ることはできますか?

A. 公立高校には確約という制度自体が存在しません。確約はあくまで私立高校の個別相談会を通じて得るものです。公立第一志望の生徒が、私立を併願確保のために確約を取っておく、というのが一般的な使い方です。

Q. 学校選択問題の対策と確約対策は両立できますか?

A. できますし、両立させるべきです。学校選択問題実施校(公立上位22校)を第一志望にする生徒の多くは、併願先の私立難関校でも確約基準が高く設定されています。北辰偏差値を上げる勉強は、実質的にどちらの対策にも直結します。

まとめ

  • 公立志願率は過去最低水準へ:少子化に加え、実質公立志願率62.0%(前年65.9%)など公立離れが加速している
  • 私立が強気な最大の理由:授業料無償化の拡大(2026年度からの所得制限撤廃)により、私立を現実的に選べる家庭が急増しているため
  • 「選ばれる私立」の二極化:人気校(浦和麗明、国際学院など)は基準を上げても応募が増える一方、確約のない最難関校(慶應義塾志木など)は無償化の影響を受けにくく人気が安定している
  • 公立上位校の壁:学校選択問題(22校)の難易度の高さが、私立難関校を確約で早期に押さえておきたいニーズを下支えしている
  • 県の調査が「牽制」に:2025年10月の実態調査によって、安易に確約基準を下げる動きが取りにくくなっている

「うちの子は基準に届くのか」を正しく判断するためには、感覚ではなく数字(北辰偏差値と内申点)を管理することが何より重要です。特に中3の夏以降は、公立向けの「学校選択問題対策」と、私立確約のための「北辰偏差値アップ」を同時並行で進めるという、時間とのシビアな戦いになります。「何をどこまでやれば北辰偏差値が届くのか」が見えないまま、不安から高額なオプション講座を次々と追加契約してしまうご家庭を、現場で何十件も見てきました。

そうならないための防衛策は、「北辰テストに直結する弱点対策」を自宅で効率化することです。埼玉の高校受験は、北辰テストの結果がそのまま「確約(=安心)」という最強のカードに変わる、他県にはない特殊なゲームです。塾のペースに頼りきるのではなく、過去問演習や弱点分析に特化した学習ツールを併用することで、このゲームを有利に進められます。限られた時間で確実な偏差値アップを狙いたい方は、こちらのような特化型サポートも選択肢に入れてみてください。

北辰テスト対策・学習サポートを見る